今回は、Webサイト制作におけるコンセプトワークの手法を解説するインタビューです。
Webサイトは事業者がほぼ全社持っているものですが、制作する際にどのようなページを用意して、どのようなコピー・コンテンツを掲載するかは悩ましい点かと思います。
戦略的に集客を向上するためには、サイト訪問した方に自社のサービスの魅力を感じてもらう必要があるため、サイト制作においてコンセプトワークを実施する企業様も増えてきました。
実際にWebサイト制作支援をする株式会社only 8の代表 村田創真さんにインタビューしました。
今回は
- 「コンセプトワークの流れ」
- 「コンセプトワークのよくある勘違い」
- 「潜在ニーズの捉え方」
- 「コンセプトワーク参加メンバーの熱を帯びるためのコツ」
についてお話を伺いました。
― 本日はよろしくお願いいたします。まずは自己紹介やこれまでの経歴をお願いします。
株式会社only 8 代表の村田創真と申します。弊社はWeb制作を軸に、Webマーケティングや集客の支援を行っています。具体的には、Webサイトを制作した後に、リスティング広告やSEOを活用し、場合によってはオフライン施策とも連携させながら集客を支援しています。
私はフリーランスから経歴をスタートしました。フリーの期間は1年から1年半くらいですね。
最初はコーダーとしてWebサイトを作り始め、次第にデザインディレクションや受注まで一通り手掛けるようになりました。
やっていくうちに「効果の出るWebサイトとは何か?」を考えるようになり、行き着いたのが、「情報設計とデザインが整っていて、それをしっかり構築できていることが重要だ」という結論でした。ただ、これを一人でやるのは難しいと感じ、デザイナーとエンジニアとともに3人で会社を立ち上げました。ちょうど2年前ですね。現在は2期目に入っています。
Web制作に携わる前はブライダル業界にいました。法人向け営業として、結婚式場と提携し、そこから紹介を受けてドレス販売の契約を取る仕事をしていました。約3年間、法人営業に従事した後、岐阜の事業責任者を任され、三重や岡崎で事業立ち上げを経験しました。その後、名古屋駅で新しい店舗を立ち上げるなどの経験を積みました。
その後、上場企業の子会社であるハウスエージェンシーの広告代理店に転職し、Webディレクターとしてのキャリアをスタートしました。これがWeb業界に入ったきっかけですね。そこでは約2年間、Webディレクションを担当しながら、並行してフリーランスでも仕事をしていました。
ブライダル業界で法人営業をやっていた経験が、今のマーケティングや集客の仕事に活きています。また、広告代理店時代にWebディレクションの経験を積み、それを活かしてフリーランスとしての仕事を広げていきました。
― ブライダルからキャリアがはじまったんですね。全くの他業界からWeb系に転職して経験を積んで創業されたんですね。
正直、最初はめちゃくちゃでした(笑)。
私はもともと名古屋に住んでいたのですが、会社を辞めるタイミングで、当時の彼女(今の妻)と「同棲するならどこでもいいよね」という話になり、関東へ移住しました。ただ、その時は無職だったんですよね(笑)。
とりあえず「Webサイトを作って暮らそう」と思い、フリーランスとして活動を始めたのですが、当然ながら最初はまったく売れませんでした。事例もないし、業界未経験だったので、クライアントを獲得するのに苦戦しました。
そこで、代理店営業を始めることにしました。東京・横浜の制作会社をGoogleで検索し、5ページ目くらいまでの会社にひたすらアポイントを取りました。そのうち5社くらいが反応してくれて、コーダーとして仕事を受けられるようになったんです。
ひたすら勉強しました。当時はAIもなかったので、JavaScriptを独学で学びながら、代理店向けに納品を続けていました。
そのうち、「このまま代理店向けの仕事をしているだけではダメだ」と思い、直営業でクライアントを増やす方向にシフトしました。ちょうどそのタイミングで、紹介から大きな案件を獲得する機会があり、それをきっかけに事業が軌道に乗っていきました。
― めっちゃガッツがありますね!創業時の新規開拓は誰しも非常に悩ましいところですが、「とりあえずWebサイトから問い合わせ」という正攻法でやりきったのが素晴らしいですね。また、コーディングの勉強をしながらなんとか納品に間に合わせるというのもかなり大変だったかと思いますが、コーディングが分かっているのとそうでない場合だと、品質に安心がありますね。
中小企業ほどコンセプトワークが必須!「サイト制作時に流入チャネルも設計すべき!」
ー さて、今回は「Webサイト制作のコンセプト」に焦点をあててお話を伺いたいです。まずざっくりとコンセプトワークを前提としたWebサイト制作の流れについてお聞かせください。
まず初めにコンセプトを作ります。
そのコンセプトに沿って、どのように情報設計を行うかを決め、その設計を基にデザインへ落とし込みます。そして最終的に構築し、公開するというのが大まかな流れですね。
コンセプト設計の段階で、どのようなコンテンツが受けるか、またマーケティングの勝ち筋が見えてくるので、それらをリスト化しておくことも重要です。
― なるほど。つまり、集客チャンネルもこの段階である程度具体化していくのですね?
はい。要件定義の一環として、コンセプトワークを行い、その後にワイヤーフレームを作成し、デザイン、構築と進めていきます。
例えば、あるサービスでは「TikTokが効果的だろう」とコンセプト設計の段階で見えてくることもあります。そこで、どの集客チャネルを使うかをある程度見定めておくわけです。
ただし、この段階で完全に決めるのではなく、ブレインストーミングを行うことで、後のプロセスをスムーズに進める準備をします。
POINT:Webサイト制作段階で流入チャネルの設計まですべき!
― 村田さんが特に重要視しているポイントは何でしょうか?
一番大切なのは、やはりコンセプト設計のプロセスですね。方法としては大きく2種類あります。
① 簡易版(ショート版)
・スプレッドシートのフォーマットを用意し、必要な情報をインプット。
・3時間ほどのオンラインミーティングでコンセプトを作成。
② 本格版(ロング版)
・オフラインで実施(10時~18時など、1日かけて行う)。
・最初に「現状の課題」や「顧客の悩み」を洗い出し、不(ネガティブな要素)をリストアップ。
・競合分析、自社の強みと掛け合わせ、ビジョンを明確化。
・「顧客の悩み」「競合の状況」「自社の強み」「ビジョン」の4つを整理し、最終的にコンセプトへ落とし込む。
このように、リサーチを重視し、事前に競合の情報を調べておくことが「ステップゼロ」となります。
大企業ではコンセプトワークは当たり前のように実施されていますが、中小企業ではほとんど行われていません。
なぜかというと、「コンセプトを作る意味が分からない」と思っている経営者が多いからです。そのため、やらないんですよね。でも、実は中小企業こそ、コンセプトワークをしっかりやらないと市場で戦えません。 訴求が全く整っていない状態の企業が多いので、そこを整える必要があるんです。
「データを見ないと何が正解かわからない」とよく言われますが、確かにその通りです。
ただ、データを見る上でも、そのデータをどのように組み立てるか、情報設計をどうするかは、誰かが仮説を立てて責任を持って「これでいく」と決めないといけません。ここがまさに「コンセプト」の部分なんです。
POINT:筋違いのPDCAが回らないように仮説をもって情報設計をすべき!
「訴求の本質って何だろう?」を考える。コンセプトワークの具体的な流れ
― コンセプトワークの具体的な流れについて教えてください。
コンセプトワークの具体的な流れは下記のとおりです。
コンセプトワークのフローを分解すると、以下のようになります。
- リサーチ(ステップゼロ)
- 競合の情報を集める
- 顧客の悩み(負の要素)を洗い出す
- 情報整理
- 現在の市場状況を確認
- 競合分析、自社の強みを明確化
- ビジョンの設定
- 競合との差別化ポイントを見つける
- 顧客の悩みを解決する方向性を決める
- コンセプトの構築
- 「顧客の悩み」「競合の状況」「自社の強み」「ビジョン」を統合
- 事業の核となるコンセプトに落とし込む
このプロセスを踏むことで、ビジネスの方向性が明確になり、集客の戦略も具体化されます。
― 潜在ニーズを可視化することからはじまるイメージですね?
そうですね。
潜在ニーズというのは、ユーザー自身も気づいていない悩みのことです。言語化されていないことが多いので、それを明文化するのが重要なプロセスです。
そもそも「訴求の本質って何だろう?」というところから考えていました。最近、その本質が誤解されているケースが増えているなと感じています。
LP(ランディングページ)について考えると、よくある「こんなお悩みありませんか?」という構成のものがありますよね。一見、わかりやすい形ですが、実際に数値的な変化はほとんどないんです。
どちらがユーザーにとって好印象かという視点で見ると、「こんなお悩みありませんか?」という表現は、むしろ怪しく見えてしまうこともあります。そのため、どうせなら綺麗なデザインで作った方がいい、という結論に至ることが多いですね。
市場に出ているLPを見ても、同じようなデザインが溢れています。例えば、「ボタンをグラデーションにするとCVRが上がる」といった話もありますが、実際には誤差レベルの話でしかないんです。結局、「コンセプト」が一番大事なんですよ。
リサーチを通じてターゲットを分類し、セグメント化することで、どんな悩みがあるのかを把握できます。そして、その潜在ニーズをコンセプトに落とし込んでいきます。
最終的に、
【顧客の悩み(負) + 競合の状況 + 自社の強み + ビジョン = コンセプト 】
という形で整理し、戦略に落とし込むことが重要です。
コンセプトワークの落とし穴!「一部の人だけ納得では意味がない」
ー コンセプト作りは私も重要だと思い、ご支援した経験があります。一方でもちろんうまくいかないケースもあると思いますが、それはどういう課題があるからでしょうか?
最終的なアウトプットの質だけでなく、「そのコンセプトを関係者が本当に信じているか」 という点が鍵だったのではないかと思います。コンセプトがいくら論理的に優れていても、組織のメンバーが納得し、共感しない限り、実行にはつながらないんです。
より具体的に言えば、下記の2つがあります。
① コンセプトができたらゴールだと思っている
コンセプトワークを行った後、「いいものができた!」と満足してしまい、それを実行しないケースが多いです。しかし、コンセプトは作ることが目的ではなく、それをどう浸透させ、運用していくかが重要です。
② 「コンセプトは必要ない、自分が一番わかっている」と思っている
事業会社側の人間は、自社の商品やサービスのことを「自分が一番理解している」と思いがちです。しかし、実際に第三者の視点で見直すと、「本人は強みだと思っていなかったことが、実は競争力のある要素だった」 というケースが多々あります。また、経営者が「顧客はそんなに悩んでいない」と思っていても、実は深刻な課題になっていることもあります。
共感がなければ、どれだけ素晴らしいコンセプトを作っても、ただの「絵に描いた餅」になってしまいます。
ここで重要なのが、「マーケティングコンセプト」と「会社のコンセプト」の違い です。
- 会社のコンセプト
これは経営者が掲げる「組織の指針」であり、企業文化や価値観の根幹になります。これが明確でないと、社員が何を信じて仕事をすべきか迷ってしまいます。 - マーケティングコンセプト
これは、顧客に対してどんな価値を提供するか を決めるものであり、会社のコンセプトとは別軸で設計されるべきものです。しかし、これが会社のコンセプトと大きくズレると、組織として一貫した動きができなくなります。
つまり、マーケティングコンセプトを決める際には、会社のコンセプトと整合性を持たせることが非常に重要 なのです。
POINT:「マーケティングコンセプト」と「会社のコンセプト」は明確に異なる!
コンセプトワーク参加メンバーが熱を帯びるためのコツ「理想は7人以下で実施」
― コンセプトワークをうまく機能させるために、何かコツはありますか?
まず、参加人数は8人以上にしない方がいい ですね。
企業によるかもしれませんが、リーダーを含めて7人以下 が理想です。それ以上になると、意見がまとまらなくなり、余計な調整が増えてしまうんです。
コンセプトワークでは、多角的な視点を持ったメンバーが意見を出し合うことが肝心ですが、多すぎると似たようなタイプの人がグループを作り、そちらに意見が寄ってしまうことがよくあります。すると、「あれ? そっちに偏ってるな」となり、無駄な調整が発生するんです。
さらに、「発言しやすい空間づくり」 は、めちゃくちゃ大事ですね。
① 否定は絶対NG
どんな意見が出ても、頭ごなしに否定しないこと。これは、アイデアが生まれる場を壊さないために必要なルールです。
② 誘導しない
「こう思うけど、どう?」みたいな誘導的な聞き方もNG。そういう聞き方をすると、意見が制約されてしまいます。
③ 質問の仕方を相手によって変える
論理的思考が得意な人に対しては、曖昧な質問ではなく、明確なフレームを示す必要があります。一方で、感覚的な人は、抽象的な問いかけでもスムーズに発想を広げられます。
「その人の思考スタイルに合わせた質問をすること」が重要です。
― コンセプトワークでは、どのような思考が求められますか?
「イメージを想起させる力」 が重要ですね。
例えば、「専属ガイド」という言葉を聞くと、自然と「バスツアーのガイド」や「登山のガイド」などのイメージが湧きます。このように、単語同士の組み合わせが勝手にビジュアルを喚起するんです。
この「イメージングの力」を利用しないと、コンセプトワークはうまく機能しません。これは、論理的思考(ロジカルシンキング)とは別の能力で、創造的思考(クリエイティブシンキング) に分類されます。
― コンセプトをWeb制作のアウトプットに落とし込む際に、どこに注意を払っていますか?
一番大事なのは、「最初のインパクトで興味を引くこと」 ですね。
① ファーストビュー(最初に目に入る部分)
コンセプトに紐づいたキャッチコピーと、それを裏付けるコンテンツを配置する。
② セカンドビュー(ファーストビューの次に目に入る部分)
ここでコンセプトの魅力を深める情報を提供する。
③ その後の情報設計
ここで必要な情報を整理し、訪問者がスムーズに目的の情報へたどり着けるようにする。
これがベースの考えなのですが一概にこの通りにもいかず、、、
例えば、病院のWebサイトの場合、
コンセプトを大きく打ち出すよりも、診療時間やアクセス情報をすぐに見せた方がユーザーにとって有益 だったりします。つまり、ターゲットが何を求めているかを考え、適切な場所に適切な情報を配置すること が重要です。
また、Webサイトを作る際に、「全員に受け入れられるサイトを作ろう」とすると、結局誰にも刺さらないサイトになる んですよね。
ターゲットに共感してもらえない人は、むしろ離脱させるべき です。それは「失敗」ではなく、適切なフィルタリング なんです。
例えば、SEOやリスティング広告で流入してきたユーザーがいたとして、その人が求めている情報とサイトの内容が合わなければ、離脱した方が双方にとって良い結果になります。
だから、「ターゲットを明確にする」=「不要な人を切る」 という考え方を持つことが大事です。
POINT:「自社のターゲットにあわないユーザー」の訪問は思い切って捨てる考えが重要!
― サイト制作時のクリエイティブと論理のバランスについてどう感じていますか?
最近、クリエイティブよりも「論理」が重視されすぎている傾向があります。
論理的なマーケティング戦略は、誰でも使いやすく、わかりやすいので、どうしてもそちらに流れがちです。しかし、本当に市場を動かすようなゲームチェンジは、クリエイティブな発想から生まれる んですよ。
― 論理に偏ると、どういう問題が起こりますか?
村田:
例えば、「ボタンのグラデーションを変えたらCVRが上がる」といった細かい最適化ばかりに意識が向くようになります。でも、それだけでは売上が3倍、4倍になることは絶対にありません。
最初のフェーズでは、論理よりもクリエイティブな発想が必要 です。クリエイターが論理に縛られすぎると、表現がパターン化し、個性のないコンテンツばかりになってしまいます。
本当に強いブランドやマーケティングは、「論理」と「クリエイティブ」のバランスが取れたところから生まれるんです。
まとめ 【インタビューを終えて】
Webサイト制作だけではなく、集客を意識したコンテンツ作りにおいて非常に参考なるインタビューでした。
記事内でもおっしゃっていた「すべての人に受け入れられるサイトを作ろうとすると、誰にも刺さらないサイトになる」という考え方がとても腑に落ちます。
多くの企業が「できるだけ多くの人に見てもらいたい」と考えがちですし、実際に誰のためのメッセージかわからない文言がWebサイトに大きく掲載され、一方的なメッセージや訴求になっているサイトやコンテンツを見かけるケースも多いです。
実際には明確なターゲットを絞り込んで、合わない人を振るい落とすことことも重要なマーケティングの本質から考えたときに、特に中小企業ほど「本当に狙うべき顧客」を意識したコンセプト作りが重要です。
「データをもとに判断する」という思考は必要ですが、「どういう仮説をもとに改善するか」という点が見過ごされると、「離脱率が高いからメッセージを変えよう」みたいなアクションや、「ボタンの色を変えてみよう」という本質的ではない改善もありえます。
最後に、本インタビューのPOINTを振り返ります。
- Webサイト制作段階で流入チャネルの設計まですべき!
- 筋違いのPDCAが回らないように仮説をもって情報設計をすべき!
- 「マーケティングコンセプト」と「会社のコンセプト」は明確に異なる!
- 「自社のターゲットにあわないユーザー」の訪問は思い切って捨てる考えが重要!
もっと本質的な訴求がしたい、コンセプトから作り変えたい、納得のいくWebサイト制作をしたいという企業様はぜひ株式会社only8 にお問い合わせください。