【徹底解剖】TENTIAL「BAKUNE」のマーケティング・製品戦略  -BAKUNEマーケ施策の再現性

【徹底解剖】TENTIAL「BAKUNE」のマーケティング・製品戦略 -BAKUNEマーケ施策の再現性

パジャマで疲労回復「BAKUNE」累計100万セット販売 ヒットの全貌

2025年10月19日の日経新聞でTENTIAL社「BAKUNE」が取り上げられていました。

それをきっかけにTENTIAL社およびそのプロダクトを調べると、とてもおもしろかったので、TENTIALをテーマに「人気DtoCブランド」のマーケティングについて考察含めて書いていきたいと思います。

 

本コラムは大量の文章量で、結果的に勝手にコンサルみたいな偉そうな内容になっていますが、エンタメとしてご覧ください。

 

私も数年前から「BAKUNE」を愛用しています。

知人にもおすすめすることがたまにあります。

 

DtoCブランドで、近年上場したサービスはさまざまあるとは思いますが、一般的にそこそこ知名度があるDtoCブランドの上場は新鮮です。

 

ぱっと思いつく限り、ここまで一般的認知度がある商品で上場したのは、ファミマにも置いている「BASE FOOD」のBASE社が私にとっては印象深いです。

BASEは、パンなのでより親しみやすく認知度は高いイメージ。

(ちなみに、2025/10/21 時点で、BASEは時価総額は約190億円、TENTIALは約330億円とTENTIALのほうが規模として大きいです。)

 

マーケティング界隈にいるからこそ、DtoC業界は薬機法スレズレのサービスや、クロと断言してもいいようなサービスがチラホラいて頭を抱えるのですが、TENTIALは一般医療機器として真っ向から法律に対峙してそれ以外の監査も合格して上場までしているのでそのすさまじさは計り知れません。

 

BAKUNEのマーケティング施策。認知の広げ方

 

BAKUNEは、かつてXなどSNSでちょくちょく話題に上がっていたように思えますが、いつのまにかタクシー広告がバンバン出ていて、しまいには 旧・ジャニーズの櫻井翔さんを起用したテレビCMが印象的ですね

 

株式会社TANTIALの公式HPより画像を引用。

 

この櫻井翔さんの起用はかなりマス認知に寄与したのではないかと思います。

かなり認知度も向上したのではないかと思いますし、実際に当初はユーザーは主に男性だったものが、テレビ番組での芸能人(Perfume)による紹介を機に女性層へと拡大したようです。

 

また、女性へのリーチが増えるにつれ、購入の用途としてギフトが飛躍的に増えたらしいです。(実際、私の身の回りにもBAKUNEを持っている人は、ギフトでもらったという若い知人が多いです。)

 

私自身は、タクシー広告が出され始めたぐらいのフェーズで購入しました。

 

購入のきっかけは、Xで話題になっていたのをみたことです。

ちょうど「身体のパフォーマンスを少しでも上げたかった」という悩みがある中で、めっちゃ効果があるとおすすめしているアカウントがあり鵜呑みにして購入しました。実際におどろくほど効果がありました。

当時は激務で、私服のままベッドで寝落ちするみたいな生活をしていたので、なおさら効果を実感しやすかったのだと思います。

BAKUNEが謳っている「疲労回復したい層」にまんまとあてはまりました。

 

BAKUNEのマーケティング施策ですが、いくつかのWeb記事を拝見する限り、テレビCM、Web広告、インフルエンサーマーケティング、N1分析を通じたサイトのLPO、キャンペーン、タクシー広告などのCRMなどさまざまな施策が複合的に絡まった結果という感じがします。(ただ、なかでもテレビCMは相当なインパクトがあったことが読み取れます)

 

注意点として、本記事ではあえて個別の施策については触れませんが、この施策があったからうまくいった (その施策は再現性がある) と考えるのには慎重になるべきです。

 

下記の記事は実際の施策についてTENTIAL社の方自身が話されている点なので参考になります。

 

経営視点で事業をけん引、広告運用しかできなかった私のTENTIALでの新たな挑戦

急成長ブランドを1人でも多くのお客様に届け、売上の拡大を支える。TENTIALマーケティングチームの挑戦 

 

こういうサービスの成功事例を見るたびに思いますが、世の中ではあまりにも美しい事業戦略やストーリーみたいなものがもてはやされすぎていますが、その多くは結果論です。

 

今回の記事を書く中でいろいろ調べていると、いわゆる成功マーケティングストーリーとして計画通りってわけでもなく、TENTIALさんの1つ1つの施策の積み重ね、もっといえばオペレーションの積み重ねの尊さを感じます。

BAKUNEは「新市場」ではない。フレームワークによる製品・マーケティング戦略分析 

 

BAKUNEは、日経BPの主催の新市場を創造した人や画期的なビジネスモデルを構築した人をたたえる「マーケター・オブ・ザ・イヤー2025」を受賞したようです。

 

とはいえ、リカバリーウエアというのはたしかに一見「新市場」に思えますが、私の見方は違います。

 

リラックスウェアなど似たようなフレーズは昔からありましたし、「リカバリーウェア」もおそらくBAKUNE以前からあったはずです。

 

いずれにせよフレーズが使用されているかどうかで新カテゴリの判定をするべきではなく、使用用途としての商品カテゴリから考えるべきでしょう。(※ 仮に、商品カテゴリを勝手に作っていいならいくらでも作れてしまうからです。とりあえず新しいワードを作って、「ニッチカテゴリートップです!」というのはあきらかに強引な戦略です。)

 

使用用途もパジャマであることに変わらず、商品カテゴリは「パジャマ」です。

 

言い方を変えれば、同一商品カテゴリにおいて、どちらかを選ぶことで商品カテゴリが果たすべき大枠の役割は果たせるはずです。(寝心地の良いパジャマは、リカバリーウェアでなくても、通常のパジャマで果たせることが多いという理屈です。)

 

つまり、新市場というよりかは、既存のパジャマ市場における機能的差別化と捉える方が正確だと思っています。

 

(実際にTENTIALがテレビCMに挑んだ際のことを語っている記事を見ると、テレビCMを打つ際は、コンセプトを「疲労回復パジャマ」というワードで説明したようです。)

 

なので、「新市場を創造した!」と言い切れるかどうかは微妙というか、少なくとも個人的にはBAKUNEの成功の実態を表しているようには思えません。(少なくとも、この事例をもとに自社の戦略に生かす場合には「新市場を作ったから成功した!」という捉え方は、害にすらなりえます。)

 

むしろ既存のパジャマ市場で薬機法などと対峙し、法令遵守体制を作り切って差別化要因 (参入障壁) を作り上げたことのほうを評価するのが適切だと思われます。

 

もちろん、法律的にカバーするだけではありません。

実際に「疲労回復」という訴求に伴ったよりよいプロダクトにするために、商品開発の段階でアスリートにつかってもらってフィードバックをもらってよりよいプロダクト開発へ結びつけています。

 

さらに、このアスリートとの提携は、そのままダイレクトにプロモーション戦略に活用できますので、マーケティング的にいうなれば、インフルエンサーマーケティングアンバサダー戦略ともいえますね。

 

ちなみに、こういったアンバサダー戦略は王道ではあるもののやり切るのは難しいですが 、ホームページでもアスリートの方にインタビューを実施して記事化しているなど、コンテンツとしてもしっかり展開されていて素晴らしいと思います。

 

くわえて製品戦略の話ですが、BAKUNEが流行する前までは、若い女性が「脚痩せ」などの寝るときに身に着けるサポーターなどがあったり、骨盤矯正などの文脈のコルセットなどはあったイメージですが、あくまでもサポート的な役割を果たすものがメインで、疲れが取れるパジャマというのはなかったような印象です。

 

もとい、「消費者にとって商品(サービス) のどこに価値を感じるか」というのはフレームワークとして3つに分けられます。

 

  1. 機能的差別化: 性能・品質の向上(BAKUNEはここ)
  2. 感覚的差別化: デザイン・ブランドイメージ
  3. サービス差別化: アフターサービス・顧客体験

 

BAKUNEの場合、特に1にあたります。あらためて、この差別化要因は大きいと思います。くわえて、先述のようなアンバサダー戦略によって2も強みとなっていそうです。

 

さらにここで、マーケティング・製品戦略をわかりやすくまとめるために、4Pフレームワークでまとめてみましょう。

 

差別化軸 具体的施策 効果・特徴
Product (製品) ・一般医療機器としての疲労回復機能

・特殊機能繊維「SELFLAME」搭載

・アスリート/スポーツ選手との共同開発

・科学的根拠による信頼性

・継続的なフィードバックによる品質向上

・既存パジャマとの明確な機能差

Price (価格) ・ギフトに最適な価格帯設定

・自己購入とギフト購入の両立

・贈答用として選ばれやすい絶妙な価格

・ギフトからの自家需要への転換

Place (流通) ・自社EC→実店舗への段階的展開

・直営店17店舗展開

・内製化戦略(店舗運営、広告、CS)

・認知向上に応じた販売チャネル拡大

・商品知識を持つスタッフによる丁寧な説明

・顧客の声のリアルタイム把握

Promotion (プロモーション) ・ターゲット転換(男性アスリート→女性層)

・TV広告/タクシー広告などでマス認知も獲得。

「リカバリーウエア」ではなく「疲労回復」訴求

・Perfumeなど女性インフルエンサー効果活用

・ギフト需要の掘り起こし

・具体的価値とブランド名の直接結びつけ

・購入者層の拡大(男性7-8割→女性主体)

・記念日プロモーションによる購買喚起

 

DtoCの基本としての自社流通でコストを抑えていることに加えて、この記事でも述べてきたように、プロモーション・プロダクトが盤石です。

 

DtoCブランドとしてのマーケティング施策の再現性

 

先述したように、TENTIALの成功は、個別の施策(TV CM、タクシー広告、櫻井翔起用)の集合体ではなく、「意思決定の基準」と「オペレーションの積み重ね」にあります。

 

それを踏まえて、以下に他社が真似できる「再現性のあるフレームワーク」**として整理します。

再現性のある意思決定

基準 具体例(TENTIAL) 他社での応用例
1. 認知フェーズごとに最適なチャネルを選ぶ ・初期:Xでのバズ(無料)

・中盤:タクシー広告(中価格帯リーチ)

・後半:TV CM(マス認知)

・ 自社商品の認知度を「0→1」

・「1→10」「10→100」の3段階に分け、予算配分をフェーズ別に最適化

2. 法令リスクをプロダクト開発に組み込む ・薬機法対応で「一般医療機器」認定 ・科学的根拠(サーモグラフィ実験)を公式に公開 ・機能性訴求商品は発売前に第三者機関検証を必須化。これを参入障壁+信頼性に変換
3. 顧客の声をリアルタイムで製品に反映 ・直営店17店舗で試着フィードバック即時回収 ・アスリート共同開発→商品改良 ・自社EC+ポップアップ店舗でN1分析を内製化。**「顧客の声=次商品の仕様」**とする

 

再現性のあるオペレーションの積み重ね

オペレーション TENTIALの実行例 再現性のポイント
内製化戦略 広告運用、CS、店舗運営を自社で完結 → 外注依存を減らし、データの一元管理を実現
ギフト需要の設計 価格帯(2万円前後)+高級感パッケージ → 「贈る側」「贈られる側」の両方を意識したUX設計
ターゲット転換のタイミング 男性アスリート→女性層(Perfume起用後) → LTVが高い層を後から狙う戦略を計画的に

 

今後考えられる製品・マーケティング戦略の選択肢

 

最後に、TENTIAL社が今後躍進を続けるためにやるべき施策を勝手に考えました。

 

セオリー的な施策になるので、とっくにTENTIAL社のメンバーの方々は考えついていると思います。

 

これまで 今後
市場 個人(男性→女性) 法人+高齢者 + ベビー+海外
マーケティング 網羅的なアンバサダー戦略 スタースポーツ選手への集中的なアンバサダー戦略
チャネル EC+直営店 B2B営業+介護施設
製品 「疲労回復パジャマ」 新ブランド立ち上げ。

法令整備およびユーザーフィードバックによる製品開発ノウハウを用いた

 

それぞれ解説します。

 

  • 市場・チャネル (法人+高齢者+海外)
    • 次の有力な顧客層は、海外・高齢者・ベビー
    • 開拓先も当然広告クリエイティブ・ターゲットをかえるだけではなく、介護施設・病院への営業などの地上戦も必要になってきます。(※ 企業の福利厚生などのB2Bは、あまり現実的ではないと思います。)
    • また海外はその分法規制も変わると思うので難しい部分はありますね。

 

  • マーケティング (スタースポーツ選手)
    • これまでは網羅的に各種フィールドのアスリートへのアンバサダー戦略を行ってきているように思えます。
    • マーケティングとしてよりインパクトを出すのであれば、マットレスの「エアウィーブ」がテニスの錦織選手やフィギュアの浅田真央さんなどが使っているとCMで大々的に打ち出したように、スター選手を集中的に起用したマーケティング施策。直近の櫻井翔さんももちろんスターですが、マス認知には聞くものの、エアウィーブのような身体へのパフォーマンスというイメージまでは結びつかないように思えるので、スターのスポーツ選手が理想。
    • 大谷翔平選手なら理想的ですし、海外への展開も考えると、NFLやNBAのスター選手を起用するのもかなりインパクトがあると思います。

 

  • 製品 (新ブランド立ち上げ\)
    • 製品戦略はマス広告を打ち続けようが需要は頭打ちになるので、アパレルブランドである限り、新規ブランドの立ち上げが必要になります。
    • 自社の強みとなるのが、本記事で繰り返し述べているような法令整備や、ユーザーフィードバックによる製品開発は強固であるはずです。
    • たとえば、「保湿ウェア」や「身長が伸びる服」などジャストアイデアですが、いくらでも課題は見つかると思いますので、それを実現できるノウハウをもつDtoCの企業はTENTIAL社ぐらいしかないという意味では非常にポジティブですね。

 

おまけ:「UNIQLOが参入してきても勝てるか?」アパレルブランドの宿命

 

BAKUNEの価格はそれなりに高いですが、ファッションブランドとしての価値はそこまでないと思います。

つまり、さきほども述べた通り、下記のなかで1が強いブランドです。

  1. 機能的差別化: 性能・品質の向上(BAKUNEはここ)
  2. 感覚的差別化: デザイン・ブランドイメージ
  3. サービス差別化: アフターサービス・顧客体験

 

同じパジャマブランドでも、ジェラートピケみたいなブランドは2で、そういったブランドとは路線が異なります。

 

こういった独自の世界観を持っていないアパレルブランドの課題は、「UNIQLOが参入してきても勝てるか?」という問いに答えられるかになります。

言い換えると、「価格競争になったときに勝てるか?」という話です。

 

(ちなみに、独自性がないDtoCのアパレルブランドでもスモール規模であれば、「UNIQLOでも似たようなものがあるが、それが知られていない」というユーザーの情報のアービトラージを狙って、モールをハックしたり、広告でうまく売り切ったりすることは可能だとは思います。)

 

もちろん、UNIQLOだけではなく、あらゆるファストファッションですが、特にUNIQLOのようなおしゃれとかではなく、機能性・きごこちの文脈が強いファストファッションが想定です。

 

もちろん、現在は技術革新が起こらない限り、UNIQLOが安い価格で大量生産できないでしょうから難しいとは思いますが、一度イノベーションが起きさえすれば、今のままだとかなり厳しい戦いになります。

 

BAKUNEに限らず、これはアパレルブランドの宿命だと思います。

 

以上

野口 和弘

野口 和弘

Stevens Company株式会社 代表取締役

慶應義塾大学商学部卒。
医療・福祉系のベンチャー企業に入社。新卒入社と同時にDX・デジタルマーケティングを管轄する新部署の立ち上げを任される。 デジタルマーケティングのゼロからの構築と社内オペレーション全体のDX/業務改善、監査対応などに従事。
その後、シンガポールの越境ECコンサルティング会社に日本人2人目のフルタイムメンバーとして転身。プロジェクトマネージャーとして国内アパレルメーカーの海外進出を支援後退社し、当社を設立。
当社設立後は、マーケティングコンサルティング、プロジェクトマネジメント、新規事業立ち上げ支援などをメインに活動。
得意業種は、IT・医療・教育・美容業界。